資本金の仕訳に使う勘定科目とは?増資や変動がある場合の仕訳を解説
会社設立時に必要となる「資本金」。ですが、資本金についての知識があいまいなまま、経理処理を行なっている経理の人も少なくありません。本記事では資本金発生時の勘定科目から仕訳まで徹底解説。資本金と間違いやすい純資産についてもご紹介していますので参考にしてみてください。
公開日 : 2021/03/24
更新日 : 2021/05/27
目次
資本金が発生した時の勘定科目
「資本金」の定義や発生するタイミングなど、基本的におさえておきたい事項から、使用する勘定科目・仕訳まで順番に説明していきます。
そもそも資本金とは?資本金が発生するタイミングは?
資本金とは、事業を開始・運営するために必要な出資金です。いわゆる元手(もとで)だと理解しておきましょう。資本金の金額は、法的には1円以上であればいくらに設定しても構いませんが、会社の規模を表すひとつの指標であるため、慎重な判断が求められます。
また、資本金は、会社が収益を上げられない経営状態に陥ったとき、その損失を補うために使うこともできる自己資本です。資本金の金額が大きければ、それだけ事業資金に余裕があることを意味しますので、第三者からは財務的に体力がある会社だと評価されやすいでしょう。
なお、資本金が発生するタイミングは会社設立時です。実際には、まだその時点では会社の口座が開設されていないため、資本金見合いの資金は、発起人の口座へ振り込みされます。
資本金発生時に使用する勘定科目
資本金が発生したときに使用する勘定科目は、その名のとおり「資本金」です。経営者のなかには、資本金の金額に、誤って開業費や創立費を含めてしまう場合もあるようですので、ご注意ください。
念のため、資本金との違いや開業費・創立費に含める支出項目について、ご紹介しておきましょう。開業費は、会社を設立するために支出した費用で、創立費は、会社設立後に営業を始めるためにかかった準備費用です。会社設立時に計上される資本金とは、いずれも発生するタイミングが異なります。
開業費に含まれる費用としては、定款の作成費用、設立登記にかかる登録免許税などが代表的です。一方、創立費に含まれる費用は、営業開始に必要な免許の取得にかかる費用や広告宣伝費などが挙げられます。これらの費用は、開業費償却あるいは創立費償却として、将来にわたって順次費用計上することが可能で、資本金とは全く性質が異なるものですので、資本金に含めるべきではありません。
資本金発生時の仕訳例
資本金は、純資産科目に分類されます。イメージしづらい方は、貸借対照表上の借方「資産の部」=貸方「負債の部」+「純資産の部」といった構図を思い出してみましょう。資本金が発生した際の仕訳は、貸方に必ず「資本金」を記入する点がポイントです。
例えば、会社設立時に100万円の出資金が払い込みされたときの仕訳を考えてみましょう。この場合の仕訳は、「(借方)現預金 100万円、(貸方)資本金 100万円」となります。
資本金の増資・減資の勘定科目と変動時の注意点
では次に、資本金が増加・減少した場合に使用する勘定科目と具体的な仕訳を解説していきます。また、そもそも資本金自体を変動させる際に知っておくべき注意事項もご紹介していますので、あわせて確認しておきましょう。
資本金増資時の勘定科目と仕訳
会社の信頼性向上や資金力の増強を目指して、資本金を増加させる「増資」を行なうことがあります。実際に増資を行なう前に、その方法には「有償増資」と「無償増資」の2種類があることや両者の違いを理解しておくことが大切です。なお、いずれの方法でも、最終的に資本金が増加することに変わりはありませんので、仕訳の貸方に「資本金」を記入する点は覚えておきましょう。
有償増資とは、株主などの出資者を一定期間を設けて募集し、資本金に充てる資金を調達する方法です。具体的には、不特定多数を対象に株主を募集する「公募増資」のほか、既存の株主を対象とする「株主割当増資」や株主以外の第三者に株式を交付する「第三者割当増資」があります。例えば、新たに株式を500万円分発行し、全額資本金に組み入れた場合の仕訳は以下のとおりです。
◆新株式申込証拠金の払い込み期日前の仕訳
(借方)現預金 500万円 (貸方)新株式申込証拠金 500万円
◆払い込み当日の仕訳
(借方)新株式申込証拠金 500万円 (貸方)資本金 500万円
一方、無償増資とは、会社が蓄えてきた余剰資金を原資として、資本金を増加させる方法です。具体的には、「資本準備金」を資本金に振り替えする方法や、「利益準備金」を資本金に組み入れる方法などがあり、どの余剰資金を使うのかによって詳細は異なります。例えば、資本準備金200万円分を資本金に組み入れ、無償増資を行なった場合の仕訳は以下のとおりです。
(借方)資本準備金 200万円 (貸方)資本金 200万円
資本金減資時の勘定科目と仕訳
会社の資本金を減らす方法として、「有償減資」と「無償減資」の2通りがあります。有償減資とは、資本金を取り崩し、株主への配当を現金などで支払う方法です。例えば、資本金を100万円減らし、株主への配当80万円を現預金で支払い、差額を「その他資本剰余金」とする有償減資を実施した場合を考えてみましょう。その仕訳は、以下のとおりです。
(借方)資本金 100万円 (借方)現預金 80万円
その他資本剰余金 20万円
一方、無償減資とは、金銭等を使用せず、資本金を「その他資本剰余金」に振り替えることによって資本金を減資する方法です。念のため、資本金100万円の無償減資を実施した場合の仕訳もあわせて確認しておきましょう。
(借方)資本金 100万円 (貸方)その他資本剰余金 100万円
資本金を変動させる場合の注意点
会社が資本金の増資や減資を行なうためには、事前に株主総会を開催し、その事実を議事録などに記載し保管しておかなければなりません。とくに、資本金を減少させる際は、株主への配当などを考慮する必要があるため、株主総会の特別決議が必須です。
特別決議をするには、株主の過半数が出席しなければならないなどの決まり事が多く、スムーズに減資をするには、適切な手順に従って準備を進める必要があります。
資本金の決め方
資本金が大きければ、会社の信用力は高まりますが、資本金が大きいほど税負担も重くなるため、慎重な決定が求められます。会社設立にあたり、資本金の金額を決定する前に知っておきたい具体的な目安を解説していきましょう。
消費税に影響のある資本金額
消費税に関しては、資本金1,000万円が税負担を左右する基準金額だと理解しておきましょう。資本金が1,000万円未満で起業すれば、第1期目と第2期目に関しては、消費税の計算を行なう基準期間がないため、最大で2年間にわたって消費税が免除されます。ただし、資本金が1,000万円を超えた場合には、消費税の免税事業者には該当しませんので注意が必要です。
法人税に影響のある資本金額
資本金の金額によって、課せられる法人税の金額も変わってきます。なかでも、法人住民税の均等割分が資本金の金額によって決められる点は、知っておきたい重要なポイントのひとつでしょう。法人住民税の均等割分は経営が赤字であっても納税しなければならないので、注意が必要です。
例えば、東京都では、1,000万円以下から50億円超まで資本金の金額に応じて、均等割額が5段階に区分されています。仮に、特別区内にある従業員50名以下の会社で、資本金が1,000万円以下であれば均等割額は年間7万円。一方、同じ会社で資本金を1,000万円超から1億円以下に増資すれば、均等割額は年間18万円に増えます。さらに、1億円超から10億円以下の資本金を有する会社となれば、最低でも均等割額は年間121万円で、固定費となる税金の影響は見逃せません。
なぜ貴方の会社の資本金に見せ金を使うとNGなのか
自身の会社の信用力を高めるためなど、どのような理由があったとしても、見せ金を使って資本金を多く見せることは脱法行為です。そもそも見せ金とは何か、そのデメリットも含めて解説していきましょう。
「見せ金」(みせがね)とは
見せ金とは、会社設立時の資本金に充てる原資を、借入金など外部からの資金調達でまかない、創業後すぐにその資金を返済するという違法な行為です。見せ金を使うことによって、会社の資本金が一時的に大きく見えるため、債権者など第三者の判断を誤らせる危険性があります。
見せ金がNGである理由
他人から借りた資金を、自己資本であるかのように偽る見せ金は、会社法の第52条の2「出資の履行を仮装した場合の責任等」で禁止されているだけではありません。万が一、そのような詐欺行為を行なった場合には、公的な文書に事実と異なる内容を記載したと判断され、刑法の第157条に基づく罪に問われる可能性があります。
見せ金を使うデメリット
実際に見せ金を使って資本金を増やした場合は、いずれその事実が明らかとなり、会社の信用力を損なうといった結果を招きます。例えば、金融機関からの借り入れを申し込む際の融資審査では、財務諸表上の数字だけでなく、口座間の資金移動なども専門家が綿密に調査するため、見せ金の存在を隠し通すことはできません。見せ金を使うことは、最終的に会社の存続自体を脅かす重大な過ちだと肝に銘じておきましょう。
資本金と類似する純資産
資本金と混同しやすい資本剰余金などの純資産についても、勘定科目ごとに紹介していきます。
純資産とは
純資産とは、貸借対照表上の貸方に表示される勘定科目区分で、「総資産-総負債=純資産」といった計算式で表すことができます。純資産は、株主資本と株主資本以外に大別され、株主資本に含まれる主な内容は、会社経営によって稼いだ利益の積み重ねと、株主や経営者による出資金です。
以下では、株主資本に該当する主な項目を勘定科目別に解説していきましょう。
資本剰余金
資本剰余金は、簡単に言えば、資本金や資本準備金に組み入れていない余剰資金です。資本金の余りである「資本準備金」とそれ以外の「その他資本剰余金」で構成されています。
なお、その他資本剰余金は、資本金や資本準備金とは異なり、将来株主への配当を行なう際の資金源として利用することも可能です。
利益剰余金
利益剰余金は、会社が利益の積み重ねによって得た内部留保資金です。開業時から現在に至るまで、経営が順調にいっている場合には利益剰余金がプラス。反対に、赤字経営が続いている会社では利益剰余金がマイナスで、長期的に見て会社に収益力があるかどうかを示しています。
貸借対照表上では、利益剰余金は、法定準備金に相当する「利益準備金」のほか、後述する「任意積立金」や「繰越利益剰余金」といった勘定科目ごとに表示しなければなりません。
自己株式
自己株式は、その名のとおり、自社が保有する株式です。いったん新規発行した株式を、金融市場や自社以外の株主などから買戻しを行ないますので、自己株式の取得で得た資金は、資本金などの払い戻しといった性格を持っています。そのため、貸借対照表上の純資産の部では、マイナス表記されるのが一般的です。
なお、自己株式を保有する目的としては、自社の持株比率を高めることによる株主総会での議決権の分散防止や敵対的買収の防止、相続対策といった事項が挙げられます。
任意積立金
任意積立金とは、利益剰余金の一部で、定款や株主総会での承認を受け、各会社が特定の目的を自由に決めて積み立てる資金です。主なものとしては、「配当積立金」や「役員退職積立金」といった項目があります。
一方、よく似た勘定科目に「別途積立金」がありますが、これは目的が定まっていない積立金で、目的がある任意積立金とは別物です。積立金の使途が決まっているか否かで、使用すべき勘定科目が異なりますので、注意しましょう。
繰越利益剰余金
繰越利益剰余金も、利益剰余金の一部を構成する勘定科目で、用途が定まっていない利益部分に相当します。イメージとしては、損益計算書の「当期純利益」に近い意味を持つ純資産勘定だと理解しておきましょう。例えば、当事業年度で利益が出ている会社の場合、損益計算書の「当期純利益」を貸借対照表の「繰越利益剰余金」へ振り替える仕訳は以下のとおりです。
(借方)当期純利益 100万円 (貸方)繰越利益剰余金 100万円
一方、当事業年度が赤字の会社で、損益計算書の「当期純利益(当期純損失)」を貸借対照表の「繰越利益剰余金」へ振り替える仕訳も下記で確認しておきましょう。
(借方)繰越利益剰余金 100万円 (貸方)当期純利益 100万円
「繰越利益剰余金」勘定に注目すると、会社が利益を上げていれば貸方の金額が増え、赤字になれば借方の金額が増えることが分かります。つまり、繰越利益剰余金の勘定には、会社がこれまでに生み出した利益が集約されているといえるでしょう。
資本金の増加・変動した場合の勘定科目を深く理解して正しい仕訳に
適正な財務諸表を作成するためには、資本金の増加・減少に至る状況を正しく把握し、正確な仕訳を作成することが大切です。間違えやすい数々の純資産勘定と資本金の違いを根本的に理解できていれば、どのような場合でも柔軟に考えて正しい対応ができるでしょう。