増資をして資本金を増やす際の手続き方法とは?注意点も紹介!
株式会社が資金調達をして事業を拡大していきたいと考えた際は増資がおすすめです。しかし、実際の増資の仕方や手続き方法が分からないという方は多いでしょう。そこで今回はそんな増資の手続き方法から増資方法の種類、メリット・デメリットなども紹介します!
公開日 : 2021/03/25
更新日 : 2021/03/25
目次
増資の手続き方法をチェックしよう!
株式会社が資金を調達するための方法の1つに、増資があります。以下では、増資の手続き方法や、増資にまつわるさまざまな疑問や注意点についてご紹介していきます。
増資は難しい?簡単?
株式会社Aは長年事業が上手くいっているため、新たに資金を獲得し、事業を拡大することを決めました。新しく資金を得る方法として、株式会社の利点を活かした増資を考えています。しかし、株式会社Aにとって初めての増資であるため、増資の手続きについてのノウハウがありません。
果たして、株式会社Aが増資を行うための手続きは、難しいのでしょうか。それとも、増資は簡単に行えるのでしょうか。
増資の手続き方法を理解すれば簡単に資金調達が可能?
株式会社の増資手続きは、さほど難しいことではありません。ただし、増資を成功させるためには、手続き方法をよく理解しておく必要があります。
それぞれの手続きの流れを理解しよう
増資を行うための手続きは、大まかに以下のような流れになっています。
1.募集事項の決定(株式総会or取締役会)
2.募集事項の通知
3.出資予定者からの申し込み
4.割当の決定(株式総会or取締役会)
5.出資者に割当の通知
6.出資金の払込み
7.登記変更
それぞれの詳細については、後程解説します。
そもそも増資とは?
増資の手続き方法の解説の前に、まずは増資についての基礎知識を見ていきましょう。増資は、方法によって3種類に分類されます。
増資について
増資とは資金調達方法のひとつです。もっと具体的に言うと、企業が新たに株を発行して、その株と引き換えに株主などから出資を受けることを「増資」といいます。会社が外部から資金を得るときには、銀行からの融資などの方法を取るのが一般的です。
しかし、融資とは借金ですので、返済の義務があります。その点、株式の発行による増資は、株式と引き換えに出資を受けることになりますので、返済の義務がありません。また、増資は株式の発行が前提ですので、株式会社特有の資金調達方法といえます。もちろん、個人事業主には不可能ですし、持分会社の場合は全く異なる方法によることになります。
ちなみに、増資は現金振り込みで行われることが多いです。手続き後は、増資として振り込まれた現金は会社が自由に使えるため、資金繰りの改善や事業の拡大のときによく利用されています。
増資の制度について
増資の制度には「株主割当増資」「第三者割当増資」「公募増資」の3つがあります。以下で、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
株主割当増資
株主割当増資とは、既存の株主に持株比率に合わせて新株を引き受ける権利を与える方法です。特徴として、「既存の株主に割り当てること」と「株式の持分に応じて割り当てること」の2つが挙げられます。
新たに株式を発行する場合、割り当てられる対象は「新規株主」か「既存の株主」のどちらかです。株主割り当て増資では、「既存の株主」に対象を絞って株式の発行を行います。既存の株主に割り当てることで、買い取ってもらえる確率が高くなります。そのため、株式が分散しないというメリットがあります。
ちなみに、既存の株主が、新規株式を引き取るか否かは自由です。ただし、株式を引き取る=出資を行わなかった場合、他の株主とくらべて株式保有率が下がることになります。あわせて、株主総会での議決割合も低くなるというデメリットがあります。
また、株式の割り当ては、既存の株主の持ち分の比率に応じて行われます。これは、株主間に不公平を生じさせず、かつ速やかに新規株式の発行・割り当てを行うためのルールです。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、株主か否かを問わず特定の第三者に対して新株を割り当てて増資を行う方法です。既存の株主に割り当てる「株主割当増資」が利用できない場合に選択されることが多いです。ちなみに特定の第三者とは、取引先・取引金融機関・自社の役職員などの縁故者であることが一般的です。そのため、縁故募集とも呼ばれます。
基本的な内容は株主割当増資と変わりません。ただし、手続き方法などに異なる点もありますので、注意が必要です。また、第三者割当増資では既存の株主とのパワーバランスを守ることが大切です。
公募増資
公募増資とは、全く新しい株主を募集して増資する方法です。広く一般の投資家を対象に株主を募集し、時価を基準にした価格で新株を発行します。単に「公募」と呼ぶこともあります。
公募増資を行うと、新規の株主が集まるため広い範囲から資金を調達できるほか、株の流通が活発化するというメリットがあります。一方、株主割当増資などと比べると手続きに時間がかかるというデメリットがあります。そのため、資金調達を急いでいるときの方法には向いていません。
株主割当増資と第三者割当増資の違いについて
株主割当増資と第三者割当増資の最も大きな違いは、株を割り当てれられる対象です。株主割当増資では、既存の株主が新株を割り当てられます。これに対し、第三者割当増資では、株主か否かを問わず、特定の第三者に新株が割り当てられます。特定の第三者とは、取引先や身内、役員などの縁故者であることが一般的です。
ちなみに、第三者割当増資は「資本業務提携」を目的としたことが多いです。資本業務提携では企業同士がお互いの新規株式を売買します。お互いが大株主になり、経営権にある程度の影響力を持つため、協力関係がより強固になります。
このように、第三者割当増資は、株主割当増資と比べると、資金調達というより企業間の関係強化を目的として行われることが多いです。
株主割当増資の手続きや注意点とは?
まずは、株主割当増資の手続き方法について見ていきましょう。株主割当増資を行うときの注意点や、メリット・デメリットにも触れています。
株主割当増資の手続き方法
株主割当増資の手続きは、大まかに以下のような流れで行います。
1.株主総会で募集株式の事項を決定・公募・通知
2.株式からの募集株式の申し込み
3.株式割り当てを決定する
4.出資金の支払い
5.株式を発行し登記を変更する
それぞれについて詳しく解説していきます。
1.株主総会で募集株式の事項を決定・公募・通知
まずは、新株発行の内容について取締役会または株主総会で決議を行います。株式公開の会社では、取締役会で株主割当増資を行うことができます。あるいは、定款に定めがある場合は、株式非公開会社でも取締役会での決定が可能です。
一方、取締役会を設置していない会社や、定款に別段の定めのない会社の場合は、株主総会を招集する必要があります。さらに、株主割当増資をする場合は、株主総会の特別決議を得て募集事項を決定します。なお、株主集会を招集するときは、その旨を招集日の2週間前までに通知しなければなりません。
ちなみに、新株の募集事項で決定すべきなのは「募集株式の数」「払込金額・算出方法」「払込期日・払込期間」などです。取締役会や株主総会でこれらの決議が行われたら、次は新株発行に関しての公示を行います。
公示の対象は、新株を割り当てられる既存の株主です。なお、既存株主に対する新株募集事項の通知は、引受申込みの2週間前までに行う必要があります。また、通知するのは「募集事項」「当該株主が割当てを受ける募集株式の数」「引受けの申込みの期日」の3点です。
2.株式からの募集株式の申込み
新株募集事項等の既存株主への通知がなされると、株主側からの募集株式の引受の申込みが始まります。 引受申込みをする際には、株主は「自身の氏名または名称」「住所」「引き受けようとする募集株式の数」を記載した書面を株式会社へ提出します。
3.株式割当を決定する
株主による新規株式の引き受けの申し込みを受け、株式会社は、各株主に割り当てる株式を決定します。株式割当の決定後は、当該株主に、株式割当通知や出資金の振込用紙を送付します。
4.出資金の支払い
割当を受けた出資者は、定められた期日までに株式会社に出資金を支払います。多くの場合、出資は金銭で行います。出資金は、株式の発行会社の金融口座に、期日までに振り込まれている必要があります。金融機関の窓口は15時には閉まるため、出資者は注意が必要です。
5.株式を発行し登記を変更する
新株を発行すると、その株式会社の発行済み株式数や資本金が増えることになります。資本金額などに変更があった場合は、登記を変更しなくてはなりません。登記変更は効力が発生してから2週間以内に変更することが義務付けられています。新株を発行したら、できるだけ速やかに登記の変更を行いましょう。
株主割当増資のメリット・デメリット
株主割当増資には、メリットとデメリットがあります。それぞれの内容について、見ていきましょう。
メリットについて
株主割当増資のメリットは主に3つあります。1つ目は「自己資本比率の増加」です。株主割当増資とは、前述のように資金調達の1つの方法です。他の資金調達の方法としては、金融機関からの融資があります。
融資には返済の義務がありますが、株式による出資には返済の義務はありません。そのため、株主割当増資を行うことで、自己資本比率の増加が見込めます。ちなみに、自己資本比率が高い企業ほど、安定性が高いと見なされます。安定性が高い企業は金融機関からの融資を受けやすくなったり、株主からの資金調達がより容易になったりするメリットがあります。
2つ目のメリットは、「株主の比率が変更しないこと」です。株主割当増資は、既存の株主の保有比率に応じて割り当てを行います。そのため、割り当て後も株主構成の比率に変更がありません。そのため、増資後の企業の経営判断に影響が出にくく、安定した経営を継続させられます。
3つ目のメリットは、「低価格で行えること」です。これにより、株主からの資金調達がしやすくなります。たとえばリスクが大きい新規事業である場合、株主はリスクを取って株式の引き受けを行う可能性があります。しかし、リスクが高い分、株式を低価格で発行すると、株主が購入する確率が高くなります。よって、資金調達が容易になるわけです。
デメリットについて
株主割当増資のデメリットは主に2つあります。1つ目は「元々の持株割合によって増資額が決まってしまうこと」という、出資者側のデメリットです。株主割当増資では、既存の株主に対し、もともとの持分比率に応じて株式の割り当てが行われます。
会社側にとっては株主の構成比率が変わらないというメリットがありますが、出資者側にとっては、株の保有率に変化がない=力関係が変わらないことはデメリットにもなりえます。また、場合によっては出資者が出資を断る場合もあります。そうなると株主への株の割り当てが均等でなくなるため、有利・不利が出ることもあります。
2つ目のデメリットは、「大きな資本金調達は難しい」という会社側のデメリットです。株主割当増資は、時価よりも安価で発行することが一般的です。そうすると株主が株を買う確率が高くなる一方で、差額は会社が負担しなければなりません。つまり、株主割当増資によって資金調達できても、その分費用が掛かるため、大きな金額を得ることは難しいのです。
株主割当増資の注意点
株主割当増資に関する注意点は主に2つです。1つ目は「株価に影響があること」です。通常は、株価は需給関係によって決定します。つまり株式を買いたい人が多ければ株価は上がり、株式を売りたい人が多いほど株価は下がります。
株主割当増資に伴って株式数が増加すると、供給量が増えるため株価は下落します。株価はその後の業績次第では回復しますが、場合によっては下落期間が長く続くこともありますので、注意しましょう。
2つ目の注意点は、「発行可能株式総数を超えると会社法違反になる」ことです。発行可能株式総数は、会社法によって定款への記載が義務付けられています。もし定款に記載された数以上の株式を発行すると、会社法違反となります。
なぜ発行可能株式総数に制限があるかというと、取締役会の職権濫用を防ぐためです。新株の発行は取締役会だけでも行えるため、株式を大量に発行することで会社の経営や株主の権利に簡単に打撃を与えることができるのです。
このため、発行可能株式総数は定款によって定められています。したがって、新株を発行するときには、定款に記載された発行可能株式総数の上限を超えないように注意する必要があります。また、上限を超える場合には、株主総会で特別決議を得る必要があります。
第三者割当増資の手続きや注意点とは?
続いて、第三者割当増資について解説していきます。手続き方法やメリット・デメリット、注意点は以下の通りです。
第三者割当増資の手続き方法
第三者割当増資を行うための手順は、大まかに以下のような流れです。
- 株主総会で募集事項を決議する
- 募集事項を通知・公示
- 株主総会で割り当て内容を決議する
- 第三者から出資を募り新株を発行
- 登記を変更する
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
1.株主総会で募集事項を決議する
新株発行に関する募集事項が決定したら、株主総会を開催して、特別決議を得る必要があります。あるいは、取締役会設置会社であれば、取締役会の決議で決定されます。
また、募集事項で決定すべき内容は、以下の通りです。
- 第三者(新株の投資家)に関する事項
- 募集株式の数
- 払込金額(株価)
- 払込期日
- 募集株式の払込場所
2.募集事項を通知・公示
発行の決議後には、第三者に対して募集事項の内容の通知・公示を行います。なお、通知は、払込期日もしくは払込期間の初日の2週間前までに行う必要があります。通知を受け取った第三者のうちの引き受け希望者は、申し込みを行います。
3.株主総会で割当内容を決議する
第三者からの申し込みを受けたら、それぞれの第三者にどの程度株式を割当てるのかを検討します。割り当てが決定したら、再び株主総会もしくは取締役会を開催して、決議を得る必要があります。
4.第三者から出資を受け新株を発行
割当に関する事項を決議したら、決議内容を第三者に通知します。通知は、払込期日の前日までに行わなければなりません。出資者は割り当てにしたがって出資を行います。出資者からの出資を確認したら、株式会社は第三者に新株を割り当てる必要があります。
5.登記を変更する
新株を発行すると、発行済み株式数や資本金が増額します。そのため、登記を変更する必要があります。この手順は、株主割当増資でも同様です。なお、登記の変更は、効力発生日から2週間以内に行うことが義務付けられています。
第三者割当増資のメリット・デメリット
第三者割当増資にも、メリットとデメリットの両方が存在します。それぞれの内容について解説していきます。
メリットについて
第三者割当増資のメリットは主に3つあります。1つ目は「資金調達が手軽に行える」ことです。公開会社の場合は、取締役会決議で第三者割当株式あるいは新株予約権の発行が可能です。そのため、基本的には買収対象企業の株主からの同意を待つ必要がありません。そのため、短期間で資金を調達することが可能です。
また、第三者割当増資は、縁故者を対象にすることが多いです。つまり、信頼できる割当先が選べるため、経営に有利な株主だけを選択して資金調達を行うことが可能になるというメリットがあります。
2つ目は、「原則として公開買い付け規制の適用がない」ことです。公開買い付けとはTOBとも呼ばれます。TOBを実施する際は、株主や内閣総理大臣に対する書面の送付が必要であるなど、煩雑な手続きが必要です。第三者割当増資では基本的にTOB規制の適用がないため、煩雑な手続きを省略できるというメリットがあります。
3つ目のメリットとして、「段階的な資本の払込みが可能」になることがあります。新株予約権を活用すると、状況にあわせて段階的な資本の払込みができるようになります。そのため、たとえば買収対象企業の業績状況にあわせて、追加出資や買収の判断を下すことができます。
デメリットについて
第三者割当増資のデメリットは3つあります。1つ目は「既存の株主が少数残る」という、買収する側のデメリットです。既存の株主が残っている限り、買収する側は、買収した会社の経営権を100%掌握することはできません。
なお、第三者割当増資によって既存の株主の構成比率が少数になると、株式を発行した会社にとってもデメリットが生ずることがあります。既存株主の持ち株比率が下がる場合、株主からの反発は避けられません。そのため、会社経営における経営判断に影響が出る場合があります。
2つ目のデメリットは「一定の株式保有割合を獲得するために多額の資金が必要になる」というものです。おなじく買収側のデメリットです。経営に大きな影響を持つ大株主になるためには、それなりの株式の買収が必要です。そのため、前提として多額の資金を有している必要があります。
3つ目のデメリットは、「新株発行価格の公正性が問題となる」ことです。非上場会社の場合、株の評価価格は公表されていません。そのため新しい株の発行価格が公正どうか、一見は判断が難しいです。とくに第三者割当増資は縁故募集ともいわれており、縁故者に有利な株価で発行する可能性が高いと見られやすいデメリットがあります。
第三者割当増資の注意点
株式会社に関しては、第三者割当増資の場合、原則として税金が発生しません。ただし、株式の引受人にとって有利発行だと認識された場合、引受人は、時価と払込価額の差額が課税の対象となります。なお、有利発行かどうかの基準は、時価と払込価額の差がおおむね10%以上の場合です。
増資前に確認しておくべき事項とは?
増資を行うためには、それなりに費用がかかります。また、スムーズな手続きを行うために必要な書類は早めに準備してください。増資に必要な費用などについて確認しましょう。
増資手続きの際の費用
増資手続きの費用としては、次のものが挙げられます。
- 司法書士等の専門家への手数料:5万円前後
- 登記時の登録免許税:3万円もしくは増資額×0.7%の大きい方の金額(例:増資額1000万円×0.7%=7万円>3万円 ∴7万円)
- その他郵送代や交通費:数百円
第三者割当増資に関する過去の事例をチェック!
Aさんは、株主譲渡制限のある会社の株主で、議決権の3分の1以上を保有し、特別決議について拒否権を有していました。あるとき、その株式会社はAさんに株主総会の招集通知を送らずに株主総会を行い、第三者割当増資を行いました。
結果、Aさんの議決権比率は3分の1になっていました。Aさんがこのことを知ったのは、新株が発行されてから1年以上経過してからのことです。この場合、新株の発行を無効とすることはできるのでしょうか。
新株発行を無効にする訴えは可能なのか?
原則として、新株発行の無効化の主張はできません。新株発行無効の訴えの提訴期間は、新株発行から6カ月以内(非公開会社の場合は1年以内)であるためです。しかし上記の場合には、「会社がAさんに対して隠ぺい工作を行ったこと」などの理由から、提訴期間を経過していても、新株発行無効の訴えにより、新株発行の無効を主張できる可能性があります。
増資をして事業を拡大していこう!
増資は事業拡大を図るうえで有効な手段です。しかしメリットとデメリットの両方が存在します。それぞれをしっかり考えたうえで、増資の判断を行いましょう。また、適切な増資を行うために、ぜひ税理士への相談もしてみましょう。