開業費で節税効果を最大限に引き出す方法!それは償却に秘密あり
開業前に払った費用を、開業費として償却し節税できるのです。通常は均等償却(5年)を選び繰延資産として費用計上しますが任意償却であれば利益を見ながら償却できます。迷いがちな均等償却と任意償却。果たしてどちらがいいのか今回はこの開業費の償却について解説します。
公開日 : 2020/12/05
更新日 : 2021/05/27
目次
均等償却も任意償却も可能!開業費ってナニ?
「自分の店を持ちたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、お店を開くとなると、その準備のためにかなりの金額がかかってしまいます。
そんな時に、開業にかかる費用を「開業費」として減価償却すれば、節税対策が行えます。
今回は、そんな開業の時にかかる費用である「開業費」について解説いたします。
開業費とは
開業をするにあたっては、事業に必要な物品の購入費や、事業の広告費など、様々な費用がかかります。
個人事業主の場合は、店舗の工事費や、顧客や関係者と打ち合わせを行うための接待費、旅費交通費、事業に必要な認可取得のための費用など、「営業を開始するまでにかかった一切の費用」を「開業費」として経費に計上することができます。
開業費は10万円を基準として扱いが変わってきます。
合計が10万円以上だった場合、「開業費」は繰延資産として計上され、減価償却の対象となります。また、確定申告の際に、「開業償却費」として経費に計上できます。
合計が10万円未満だった場合、各費用ごとに該当する勘定科目に応じて、経費として計上することができます。
任意償却とは
開業費は、繰延資産として計上することで「減価償却の対象」とすることができますが、開業費の償却方法には2種類あります。
まず1つが、「任意償却」というものです。
任意償却においては、繰延資産として計上したものを、いつでも償却費として必要経費に算入できます。
そのため、開業直後で経営が厳しいとき、開業費を経費として算入せず、何年か経って利益が出てきたタイミングで、必要経費として計上するという工夫ができます。これによって節税をすることができます。
均等償却とは
もう1つの方法が、均等償却というものです。
均等償却とは、繰延資産として計上したものを、均等な金額で何年かに渡って償却する方法です。
青色申告の特別控除額が最大65万円となっているので、毎年65万円までを減価償却として計上することは非常に大きな節税対策です。そのため、あまり利益にこだわらないという場合は、こちらを選択することが多いです。
繰延資産とは?会計上と税法上の違い
開業費は繰延資産として計上できることを解説しました。
では、そもそも繰延資産とは何でしょうか。
繰延資産の会計上と税法上での違いを解説します。
繰延資産とは
繰延資産(くりのべしさん)とは「すでに代金を支払済もしくは支払う義務が確定し、サービスや物の提供を受けているが、今年だけでなく翌年以降にも影響を与えるもの」です。
かみ砕いていえば、費用とするべき何らかの支出をした際に、その全額を計上することなく、将来の収益のためという目的に基づいて資産に計上することとされた資産のことを指します。
会計上、税法上の違いとは
開業費を例にして考えてみましょう。
開業費を一旦資産として計上し、その後何年かかけて、経費として計上していくことができます。このとき、開業費を何年で償却するのかについて、会計上の考え方と税法上の考え方が異なります。
会計上の考え方では、5年で均等償却します。
税法上の考え方では、任意償却します。
実務においては、両者のうち、税法にのっとって処理する場合が多いです。
いつ発生した経費が開業費になる?創業費との違い
開業費と混同しやすいものとして、「創業費」というものがあります。日本語として使う場合は、似たような意味ですが、会計上では、開業費と創業費には明確な違いがあります。開業費か創業費なのかによって、どちらに計上するかも変わってきます。
ここでは、開業費と創業費の違いについて解説します。
混同されがちな「創業費」とは
開業費とは、「事業を開始するまでにかかった費用」です。一方、創業費とは、「会社設立前の準備開始から会社設立までにかかった費用」です。
会社を設立したからといってすぐに事業が開始できるとは限りません。
そのため、会社の設立までにかかった費用を創業費、会社設立後、事業を開始するまでにかかった費用を開業費、として計上します。
いつ発生した経費が「開業費」として認められる?
前述したように、開業費は開業までにかかった費用のことです。しかし、個人事業主の場合、いつを開業日にするかは、特別な決まりがありません。
そのため、吉日や一粒万倍日、結婚記念日や誕生日など、いつを開業日にしても構いません。そして開業費は、開業日前に購入したものなどを計上することができます。
例えば、開業日よりも5年前に購入した机と椅子であっても、開業のために購入したということを証明することができれば、開業費にできます。
しかし、一般的には、数ヶ月前から半年前までの支出が開業費として考えるのが妥当です。
一般的に開業費として計上されているもの一例
開業のために支払った費用のほとんどは、開業費として認められます。
店を開く際に立地の調査をしますが、その調査費用や、店舗開業にあたっての宣伝広告費、事務所を借りる場合は、事務所の家賃や、事務所に設置するパソコンやプリンターなどの電子機器類、関係者などとの打ち合わせのための、旅費交通費や手土産代など、様々なものを開業費として計上することができます。
開業費の原則は「営業外費用」として処理すること
ここまで開業費について述べてきましたが、法人の開業費の会計処理はどのようにするのでしょうか。法人の開業費は、開業した年に全てを経費として計上することもでき、その場合の開業費の会計処理は、原則として「営業外費用」として処理します。
ここでは、具体的に開業費の処理の仕方について、解説します。
「営業外費用」とは一体どのような費用?
開業費は原則として「営業外費用」として処理すると説明いたしましたが、営業外費用とはどのようなものでしょうか。
営業外費用とは、文字通り営業活動外で発生する損益のことです。例えば、お花屋さんの営業活動は花を売買することです。花を売買することで発生する損益は、全て営業活動としてみなされます。
しかし、花を売買すること以外で発生した損益は、すべて営業外費用として認識されます。
例えば、借入金の支払利息や、社債利息などが営業外費用です。開業費もこの営業外費用として計上します。
販売費での処理もOK
開業費は、営業外費用として計上すると述べましたが、これは販売費および一般管理費として処理することもできます。
開業前にあまり費用が発生せず、繰延資産として計上するメリットがあまりない場合は、販売費および一般管理費として、旅費交通費や広告宣伝費など、それぞれの勘定項目で計上することもできます。
開業費として計上するときの注意点
開業前の費用は、営業外費用や、販管費および一般管理費として計上できます。しかし全ての費用を開業費として計上できるわけではなく、いくつか例外もあります。
ここでは、開業前にかかった費用のうち、開業費としての計上を認められていない費用を解説します。
10万円以上する設備は「固定資産」
開業前の費用であっても、10万円以上の備品消耗品は、開業のためだけでなく、その後何年にもわたって使用できるため、開業費としてではなく、固定資産としての扱いになります。そのため、開業費として計上することができません。
例えば、10万円を超えるパソコンや、応接セットなどは有形固定資産とみなされます。固定資産の場合は、法律により、決まった年数で減価償却をして、経費計上していく必要があります。
賃貸契約の「敷金・礼金」
事業を行うために事務所を賃貸した場合、事務所の家賃は開業費として認められます。
しかし、事務所を賃貸する際の、敷金・礼金は開業費として認められません。
これは、貸主に支払った敷金は、賃貸契約の解除の際に戻ってくる経費であるため、開業費として認められないからです。
礼金に関しては、契約解除の際に戻ってこないものもありますが、開業費としては認められていません。礼金に関しては、20万円以下の場合は、「支払手数料」として費用計上し、20万円以下の場合は、「長期前払費用」として、契約期間中に取り崩して処理していきます。
実は間違えやすい?消費税の取扱い
消費税は、物品の売買をした時などに支払いが発生します。
販管費として処理する場合は、特に問題ありませんが、開業費として償却する場合は、消費税の処理に注意する必要があります。
ここでは消費税の処理方法について、解説します。
消費税は「開業費を計上したとき」に仕入税額控除を受ける
開業費を、販管費や営業外費用として計上した際、消費税は仕入税額控除されます。
そのため、税金が安くなり、節税対策をすることができます。
開業費の償却は消費税の課税対象外取引
開業費を、販管費や営業外費用として計上した場合は、消費税は仕入税額控除を受けます。
しかし、開業費を繰延資産として計上した場合は、消費税の課税仕入とはなりません。そのため、消費税の仕入税額控除を受けることができません。ここでの消費税の処理は間違えやすいので、注意しましょう。
法人税の申告はどうなる?申告書の書き方を解説
法人についても開業費の償却が認められています。開業費と法人税の関係はどのようになっているのでしょうか。
法人税の申告には、別表十六というものがあり、ここに減価償却について記載するようになっています。その中で「一時償却が認められる繰延資産の償却額の可算に関する計算書」という書類を、作成しなければいけません。
ここでは具体的に、法人税と開業費との関連を解説していきます。
法人税の申告書「別表十六」の書き方
別表十六とは、法人が償却費として計算した金額が、税務上、償却限度内であるかを計算するために使用する書類です。
別表十六の書き方としては、「一時償却が認められている繰延資産の償却額の計算に関する計算書」欄に「供用年月」「取得価額」「償却率」「当期償却額」「期末帳簿価額」項目などを記入することで出来上がります。
一般の方でももちろん処理を行うことは可能ですが、ここは非常に専門的な分野になるため、税務に関しての特別な知識がある方でない場合、税務のエキスパートである税理士に依頼した方がよいでしょう。
仕訳をして会計処理する方法
それでは実際に、会計処理の仕方について説明します。
開業前に椅子を10,000円、机を20,000円で購入し、開業費として繰延資産として計上する場合を考えてみましょう。
借方科目として「開業費」30,000円を記入します。そして、貸方科目には「元入金」30,000円を記入します。
開業前は、まだ事業が始まっていないため、資金がありません。そのため、勘定科目は「現金」ではなく、「元入金」という科目を使うことに注意しましょう。
その後、決算時に開業費を全額償却した場合は、借方科目に「繰延資産償却」として30,000円、貸方科目に「開業費」30,000円を記入します。
以上が、開業費を償却する場合の仕訳です。
青色申告だからこそ効果を発揮!白色申告の落とし穴
開業費を繰延資産とし、利益が多く出た時に経費として計上することで、税金対策ができます。
青色申告の場合、赤字の金額を翌年以降、3年間に渡って繰り越せるため、赤字になることを気にしないのであれば、開業費は初年度に全額償却してもかまいません。
しかし、白色申告の場合、赤字を翌年に繰り越すことができません。そのため、翌年に多くの利益を出せそうな場合は、開業費の償却をその年は少なめにしておき、利益が多く出そうな翌年に、償却額を多くするように工夫する必要があります。
一般的な会計ソフトへの登録は?
現代ではほとんどの会社が会計ソフトを使用し、会計業務を行なっています。
会計ソフトを使用して会計業務を行う場合は「繰延資産」を事前に登録しておきましょう。そうすれば、開業後2年目や3年目に償却する場合も、簡単に計上することができます。
開業費の償却について
開業費を繰延資産として計上し、節税対策として活用できることを解説しました。
実際に開業費を繰延資産として計上する場合、いくつかの手続きが必要です。場合によっては、税のプロである税理士に依頼をした方が良いので、税理士へ依頼することも念頭に、開業費をうまく活用し、節税対策を行なってください。